
はじめに
「セキュリティにお金も時間もかけたくない」――これは多くの中小企業のIT担当者が本音では感じていることではないでしょうか。専任の情シス担当がいない、あるいは担当者が他の業務と兼任している会社であれば、なおさらです。
一方で、近年も大手サービスで数百万件規模の個人情報が流出したと報じられる事例があったように、情報漏えいのニュースはもはや他人事ではなくなってきています。現場でも「そうも言っていられない事情」が増えているのではないでしょうか。たとえば、次のような状況に心当たりはありませんか。
- ISMS(ISO 27001)認証の維持審査で「端末のOSは最新化されているか」「暗号化は有効か」といった証跡の提出を求められる
- 取引先から届くセキュリティチェックシートに「EDRを導入していますか」という項目が設けられており、対応を検討せざるを得ない
- 自社で開発したサービスやシステムを提供しており、社内の端末が攻撃の起点になって、お客様の環境にまで影響が及んでしまうことが心配
このように、手作業での証跡集めや取引先からの要求への対応、顧客への影響といった懸念が、何らかの仕組みづくりを検討せざるを得ない場面を増やしているのが実情です。
この記事では、なぜ今「EDR」や「端末管理」という考え方が中小企業でも検討されるようになってきているのか、そしてMicrosoftの「Defender」と「Intune」がそれぞれどのような役割を担うのかを解説します。
そもそも「EDR」とは?
これまで多くの企業が導入してきたウイルス対策ソフト(アンチウイルス)は、既知のウイルスのパターン(シグネチャ)と照合して、当てはまるファイルを実行前に検出・ブロックする仕組みが中心でした。そのため、パターンに登録されていない新しい攻撃や、正規のツールを悪用した攻撃は見逃しやすいという弱点があります。
一方の「EDR(Endpoint Detection and Response)」は、侵入を完全に防ぐのは難しいという前提に立った仕組みです。端末上のプロセスや通信といった動きを記録・監視し、不審な動きを見つけた時点でアラートを出します。必要に応じて端末を隔離するなど、被害が広がる前に手を打てます。
「侵入されないこと」だけでなく「何か起きたときに、いかに早く気づけるか」まで含めて備えておくことは、企業規模を問わず検討する価値があるといえます。
役割が違う:Defenderの「検知」とIntuneの「管理」
ここで大事なのは、「EDR」と「Intune」は同じ役割を担うものではない、という点です。EDRの役割を担うのはDefenderで、Intuneは端末を管理するための別の仕組みです。
Microsoft Defender for Business(従業員300名までの中小企業向けに提供されているセキュリティ製品で、Windows・Mac・Android・iOS/iPadOSに対応)は、次の機能を通じて「脅威を検知し、対応する」役割を担います。
- 次世代型の保護(アンチウイルス/マルウェア対策)
- 攻撃対象領域の減少(不要な機能や脆弱な設定を制限する)
- EDR(不審な挙動の検知と対応)
- 自動調査・自動修復
一方のMicrosoft Intuneは、PCやスマートフォンを遠隔から一元管理するための仕組みで、「端末を管理し、ルールを適用する」役割を担います。OSのバージョンやディスク暗号化の有無、画面ロックの設定といった項目を「コンプライアンスポリシー」としてルール化し、条件を満たさない端末を「非準拠」として検知したり、利用者に是正を促す通知を送ったりすることができます。
つまり、Defenderが「異常に気づく仕組み」、Intuneが「端末の状態を把握し、必要な設定を行き渡らせる仕組み」であり、この2つを組み合わせることで、脅威の検知から端末側の対応までを一つの管理画面で見渡せる環境が整います。
少人数の情シスでも運用しやすい3つの理由
ここまで、EDRや端末管理が検討されるようになってきた背景と、DefenderとIntuneの役割を見てきました。とはいえ、必要性は理解できても、「専任がいない、あるいは兼任の自分に運用できるのか」という不安は残るかもしれません。そこで、少人数の情シスでも運用しやすいと考えられる理由を、3つの観点から整理します。
①証跡集めやレポート作成の手作業を減らしやすい
これまで端末の状態確認や報告といえば、担当者が端末ごとに設定を確認し、Excelなどにまとめて報告するなど、手間のかかる作業になりがちでした。
Intuneを使うと、端末のOSバージョンやシリアル番号、暗号化の状態などがクラウド上に自動で一覧化されるため、資産管理やセキュリティ確認に必要な情報を都度手作業で集める負担を減らしやすくなります。
また、コンプライアンスポリシーの適用状況やDefender側の検知・対応状況も記録として残るため、社内報告はもちろん、ISMSの維持審査や取引先のセキュリティチェックシート対応で求められる確認・報告も、定期的なダッシュボードの確認につなげやすくなります。
② 端末状態を見える化しやすい
在宅勤務のエンジニアが使うPCも、情シス担当者がオフィスの自分の画面から状態を確認し、ポリシーを適用できます。「気づいたら現場のPCだけ設定が古いままだった」という状況を減らしやすくなるのは、少人数で複数拠点・複数端末を見なければならない体制にとって助けになります。
③ コスト・手間を抑えやすい
Defender for BusinessとIntuneは、それぞれ単体の製品としても提供されていますが、「Microsoft 365 Business Premium」というライセンスに、これらに加えてメールやファイルの保護機能なども含めた形でまとめて含まれています。ウイルス対策・端末管理・メールセキュリティをバラバラのベンダーから個別に契約するより、結果的にコストと管理の手間を抑えやすいケースが多いというのが実情です。
まとめ
Defenderによる「検知」と、Intuneによる「管理」を組み合わせることで、ISMSの証跡対応や取引先からの信頼維持といった課題に、これまでより負担の少ない形で向き合いやすくなります。
ただし、これらは導入して終わりではありません。アラートの確認、端末状態のチェック、月次でのレポート作成、手順書の整備といった「導入後の日常運用」を継続してこそ、はじめて意味のある仕組みになります。



